FENICS メルマガ Vol.19 2016/2/25
 
1.今月のFENICS
 
 暖冬かと思いきや、寒い日々がつづく2月。お元気でお過ごしですか。束の間、フィールドに出られている方もおいでかと思います。本号は、フィールドに行かれる直前にお書きくださった文章もあります。
日本においでのみなさま、どうかしつこいインフルエンザや風邪にくれぐれもご注意ください。関西におられる方、3月5日のイベントにておめにかかれれば幸いです。
 
それでは本号の目次です。
 
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(中村香子)
3.フィールドごはん(杉田映理)
4.今後のFENICSイベント
5.チラ見せ!FENICS
6.FENICS会員の活動
 
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2.私のフィールドワーク
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「呪い」と「祝福」
中村香子(11巻『衣食住からの発見』ほか分担執筆者)
 
 私の調査地は、ケニアの牧畜民の村だ。この地では長老がつよい「呪い」の力をもつといわれている。しかし、私のふたりの調査助手は「呪いは信じていない」といっていたので、さすがに私がそれを理解するのは難しいだろうと諦めていた。
 あるとき、助手のひとりであるセピタが「結婚したいので支援してほしい」といってきた。彼にはそれまでの調査でずいぶん世話になってきた。そのときどきに心ばかりの現金を渡してはきたが、彼はそのたびに「ミラー」という覚醒作用のある植物を買い込み、一晩じゅうそれをしがみながら仲間と大声でおしゃべりを楽しみ、翌日は頭が痛いといって助手の仕事もできないほど不機嫌になる。あるときから、彼には現金を渡すのをやめてヤギを買って与えることにした。しかし、私の知らないうちにヤギは売り払われ、現金化されてミラーになるので、私は彼とは喧嘩ばかりしていた。
 
 セピタは、花嫁候補をとても気に入り、花嫁の父親と婚資の交渉をした結果、ウシが5頭必要だという。そのうち3頭はなんとかなるが、あとの2頭が足りないとのこと。嘘つきで無駄遣いばかりのセピタだが、助手としての仕事ぶりは天下一品だった。彼が私を今まで助けてくれたように、今度は私が彼の人生を支援できる番だ。まさか、これが嘘ということはないだろう、と何度も自分にいいきかせた。ウシは一頭約4~5万円だった。私は内心、不安だった。
 
「スルア(青)」とよばれる、ぬけるように真っ白なウシと、「ワス」とよばれる、白と黒が腹部ではっきりとしたコントラストを描いている美しいウシが、家畜市で売り払われ、セピタが「機関銃のように長い」ラジカセと抱えきれないほどのミラーを買っていたという噂が私の耳にとどいたのは、ウシを買ってからほんの数日後だった。「スルア」も「ワス」も婚資として完璧な、とても縁起のよい体色だった。私は怒りで悶絶した。まわりの人びとが腫れ物にさわるように私を扱ったのでますます腹が立った。彼らは私が騙されていることを知っていたのだ。
 私はセピタを呼びつけた。ほとんど泣き出しそうなぐらい私は怒っていた。無言で薄く笑っているセピタの顔を見たとき怒りが頂点に達した。そのとき私の口からとび出した叫びはこうだった。
 
「この5年間に私たちのあいだに生えた緑の草なんか、すべて枯れ果ててしまえばいい!完全に、完全に、乾ききってしまえ!!」
 
言いながら、ちょっと陶酔するぐらい我ながらうまい表現だった。「緑の草」は、牧畜民である彼らにとって豊饒の象徴である。強烈な怒りを強烈な言葉にしてふり絞ったあとの私は、どこかすっきりしていた。
 
驚いたのはその次の瞬間だ。一部始終を見物していた友人たちが「呪いはよくない、呪いを使うな」と私に言ったのである。セピタは言葉もなく肩を落として去っていった。それ以来、もう10年ほどセピタには会っていない。私の「呪い」のせいかどうかはわからないが、彼はいまだに結婚していないという。この地で「呪い」と「祝福」はセットだ。怒りは呪いとなり、それを静めて許すことが祝福である。彼に会ったら、どんな気の利いた言葉で「祝福」を表現しようか・・・ここ数年ずっと考えている。
 
 
【フィールドへの行き方】
関空からドーハまたはドバイ経由でナイロビまで飛び、ナイロビから乗り合いバ
スでニャフルル経由、マララルまで約7-8時間。乗り合いバスを降りた後は徒
歩(1時間)かバイクタクシー(15分)で牧畜集落に到着。
 
 
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3.フィールドごはん
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「食べられない、フィールドごはん」
杉田映理(12巻『女も男もフィールドへ』ほか、分担執筆)
 
 私の主なフィールドはアフリカ東部のウガンダであるが、今回は蒸し立てのホクホクのマトケ(バナナ)の話や、メンマを思い出させるマレワ(若竹の燻製)の話ではなく、「食べられない、フィールドごはん」と題して悩みを共有させて頂きたい。
  フィールドごはんが食べられない?国際系の学部の教員という立場上、ウガンダに学部生を10名以上の規模で連れて行くことがある。アフリカは初めてという学部生たちのフィールドワーク(実習)中、インタビュー先の家で食事を出されたらどうするのか。指導教員として悩むところである。少なくとも私自身のウガンダでの経験からすると、ウガンダ南部のバンツー系の人々が食事とするものは火が通っており、衛生上危険ということはまずない。もちろん、それを食べる手が汚れていれば、感染症のリスクはあるが。大学院生が自分の研究のために来ているであれば、自己責任ということで私が口出しすることではないだろう。しかし、学部生となると、大学からもリスク管理の観点から問題視されかねない。
 出された食事を有り難く頂く、というのはフィールドワークにおいてラポール醸成のためにも重要である。食べ物は出さなくていいと事前に根回しをし、学生にも食事が出たときの注意を述べなければならないのは、なんとも複雑な心情にさせられるものである。
 
sugita_photo
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4.今後のFENICSイベント
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きたる3月5日京都にて、13巻『フィールドノート古今東西』(3月末に発刊予定)の著者陣によるイベントが開催されます。ぜひともお運びください!
 
JCAS若手ワークショップ
「学際的コミュニケーションツールとしてのフィールドノート」
(FENICS 梶丸岳 企画)
 
京都リサーチパーク町家スタジオ
日時:3月5日(土)  13:00~17:00
場所:大広間
場所は市バス「堀川中立売」下車すぐです。(リンク先の「アクセス」をご参照ください)
なお、「京都リサーチパーク」はまったく別の場所ですのでご注意ください。
 
★プログラム★
 
現地の人びととのあいだをつなぐコミュニケーションメディアとしてのフィールドノート】
・山口未花子
「書く」ことの意味-調査地の価値観とフィールドノート
 
・丹羽朋子
研究者と現地をつなぐフィールドノート
 
フォーマットの決まったフィールドノートのスタイルとその応用】
・安永数明
気象観測におけるフォーマット化されたフィールドノートの役割
 
・阿児雄之
遺跡探査とフィールドノート
 
【多彩な記録媒体の総体としての現代「フィールドノート」と「記録」すること】
・小森真樹
ミュージアム研究における多様な記録媒体による調査手法
 
【フィールドノートと研究の地域還元】
・平田正礼
ジオパークの活動とフィールドノート
 
<コメント>
村尾るみこ
角南聡一郎
 
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5.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第15巻
『フィールド映像術』(分藤大翼・川瀬慈・村尾静二編)
「座談会:映像が切り拓くフィールドワークの未来」
 
座馬:一番大切にしたのは映像を切り替える呼吸です。タイミングというか、時間配分です。たとえば音楽に合わせて映像をつくる場合は、音楽は時間軸に沿って流れるものなので、映像を切り替えるタイミングもおのずと決まってきます。ですが、野生動物を扱った映像をヒトに見せるときには、そのタイミングをみつけるのが難しいのです。野生動物には野生動物の時間が流れていますので、その時間の流れをうまく映像に取り入れたい。しかしそれを見る人は見る人の時間が流れているので、場合によっては動物に流れている時間を退屈に思ってしまうかもしれない。……
 
(15巻のご注文はFENICSホームページhttp://www.fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
 
 
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6.FENICS会員の活動
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会員の田島さんより、お知らせをいただきました。
 
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京都大学の田島知之です。
この度、若手9人で書いた野生動物のフィールド調査体験記を出版しました
 
『はじめてのフィールドワーク (1)アジア・アフリカの哺乳類編』
東海大学出版部 2,160円
 
対象動物は、オランウータン/ビントロング/ドール/マレーバク/ヤマアラシ/マンドリル/チンパンジー/ヒョウ/ブッシュハイラックス
 
なぜフィールドワークだったのか、なぜその動物だったのか、きっかけは九人九色です。高校生や大学生にも読んでもらえればと思います。著者割 引の用意もございますが、送料がかかるため、複数冊ご注文いただける場合のみtajima@jinrui.zool.kyoto- u.ac.jp までご連絡下さい。宜しくお願い申し上げます。
 
田島 知之
京都大学大学院理学研究科 人類進化論研究室
 
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以上、みなさまからのお知らせもおまちしております。

寄稿者紹介

文化人類学 at 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科

文化人類学 at 東洋大学 |